
岳飛伝 二 – 飛流の章 –
「岳飛伝」は北方謙三の中国歴史物シリーズの「大水滸伝三部作」の第三部です。
岳飛伝が文庫化されるのをずっと待ち続けて、ようやく読み始めることができました。
第一部の「水滸伝」は全十九巻、続く第二部の「楊令伝」は全十五巻という超大作の大河小説です。
水滸伝の第一巻を読んだのは何年前だったか……もう、思い出せないくらいですね。
第三部の岳飛伝は、第二部の主人公であり、梁山泊の頭領であった楊令が死んだ後の物語です。
圧倒的なカリスマ性と戦の才能を持ち、誰も考えなかった国の形を示して、梁山泊を率いてきた楊令はもうこの世にはおらず、楊令に代わる頭領もいない。
そんな中で、梁山泊に属するそれぞれの人間達が、「志」というものをどう考えるのか、どのように持ち続けて、引き継いでいくのか。
梁山泊という「国」の形をどう考えるのか。
それが、岳飛伝の最初のテーマです。
これまで、宋江や楊令についていっていただけだった者が、それを失い、己の足で立たざるをえなくなり、自分の道を決めなければならなくなった時、その時の彼らの葛藤が描かれていきます。
水滸伝シリーズの、というか北方謙三のすごいところは、もう百数十人にもなるだろう登場人物たちが、それぞれの人生を持って魅力的に生きているということですね。
ここまでで名前のある登場人物が百人以上は死んでいると思いますが、全員が自分の生を全うして、その生き様と死に様を見せつけて去っていく。
その凄まじさに圧倒され、惹きつけられます。
水滸伝から登場している人物で、史進や燕青、李俊、呉用といったメンバーはまだ健在ですが、世代としてはもうその子供達が主役の時代になっています。
そして、この巻では、水滸伝第一巻から登場している、最重要人物の死が描かれます。
小説の登場人物とはいえ、何年来のつきあいの人物の死というのは、やはり辛いですね。
この人は仙人みたいに死なないんじゃないかと思ったけど、不世出の武術家らしく、死とまっすぐ向き合って逝ってしまいました。
小説のタイトルになっている、岳飛はというと、失った片腕を取り戻し、楊令に負けたという忸怩たる思いを抱えながら戦い続けています。この先、岳飛がどのような生き様を見せていくのか実に楽しみです。
この先、梁山泊、岳飛、金国、南宋の四者がどのように絡まり、ぶつかり合い、どのようなドラマを繰り広げていくのか。
楽しみでなりませんね。