Aire Project Blog

岳飛伝3

岳飛伝 三 – 嘶鳴の章 –

史進はもうほとんど無敵すぎて、どうやってこの物語から去っていくのだかわからなかったんだがな、と思う。
そんな史進でさえも、老いるのだと、感慨深くもあり寂しくもある。
まだまだ当分は活躍しそうな雰囲気ではあるけれど。

史進はたしか「水滸伝」第一巻から登場してたんじゃなかったかと思う。
登場時は手に負えないガキ大将で、それが王進に師事し、梁山泊の一員となり、遊撃隊の隊長として鉄棒を振り回しながら、無敵の強さで戦を勝ち抜いてきた。
宋という大きな権力に抵抗しながら。
しかし、その宋も滅びた。

金国との戦が拮抗して長引くなか、史進はその鉄棒を置き、日本刀を遣うと軍議でポツリと言う。
長期戦で鉄棒を遣い続ける体力が史進になくなりつつあるのだ。
そして、日本刀を遣って戦ううちに、感覚のズレで愛馬に傷を受けてしまう。
日本刀を鉄棒と錯覚したり、戦闘の途中に愛馬に叱咤されるなんて、今までの史進だったらありえないことだ。

「いつ、死ねるのかと、戦が終わるたびに思うぞ。しかし、死ぬために闘うのではないのだからな」

強くなりすぎると、死に場所を選ぶのも難しくなる。
王進のような死もあるが、史進にはそれはないだろう。

金国との戦も終わり、宣凱の交渉により、金国と梁山泊の講和が成る。
いよいよ戦はなくなり、軍の世代交代も進み、史進の活躍の場もなくなっていく。

「若い者ばかりになった、軍も」
首を抱き、史進は呟いた。
「そういうものかな。時が流れている、ということかな。これからは、戦も少なくなりそうだ。俺は、理由もなく荒れている爺というだけになっちまう」

対して、若者たちは新しい責任を担い、未開の地へと旅立ち、それぞれの新しい役割と志を見つけ、生き生きとしている。
新しい男女の出会いと、一途な思いも描かれ、これから次の世代がどう成長し、梁山泊がどのように生まれ変わって成長していくのか。
岳飛、梁山泊、金国、南宋の4者の絡み合いが、中華の歴史がどう動かすのか。
ますます、続きが楽しみだ。